「やまなしメディア芸術アワード2024-25」は、入選作品展を3月8日（土）〜3月30日（日）に山梨県内２エリアで開催いたします。

本展では、国内外303点の応募作品から一次審査で選出された入選作品10点を発表します。甲府、北杜の３つの文化拠点を会場にして、会期中に最終審査会を開催し、Y-GOLD（最優秀賞）、Y-SILVER（優秀賞）、本県に新たな価値を創出するY-CRYSTAL（山梨県賞）を決定します。

世界各地で経済活動や社会構造が大きく変化するなか、本展を通して、新しい創造性に触れていただき、これからの豊かな社会をつくる想像力や好奇心を広げる機会にしていただければ幸いです。

開催概要

会場にて、全ての作品の情報を掲載したパンフレットをお渡ししています。

会期
2025年3月8日(土) 〜 30日(日)
入場
無料
会場
甲府
小さな蔵の美術館（甲府市丸の内1-1-25 甲州夢小路）
ART SPACE 夢／多目的空間Y（甲府市中央2-5-29 マイヅルビル2F）
北杜
GASBON METABOLISM（北杜市明野町浅尾新田12）
開館時間
会場・アクセス情報をご覧ください。

甲府会場小さな蔵の美術館

そうだね/そうだよ

K-01

そうだね/そうだよ

遠藤 梨夏
詳細・コメント
波間にて

K-02

波間にて

羽田 光佐
詳細・コメント
I was a weapon.

K-03

"I was a weapon."

倉持 清香
詳細・コメント
Bonchi-Kofu-

K-04

Bonchi-Kofu-

久々利 涼
詳細・コメント

ART SPACE 夢／多目的空間Y

インタラクティブパフォーマンス

K-06《熱触療法》今宿 未悠
3月9日（日）15:00ー15:30／16:00ー16:30
参加費無料　※要予約、先着順。 各回体験1名、見学5名まで。予約に空きがある場合は、当日受付も可能です。
参加申し込みはこちらから↓

https://forms.office.com/r/8UmQebBpwP
Five Years Old Memories

K-05

Five Years Old Memories

小光
詳細・コメント
熱触療法撮影：青木成美

K-06

熱触療法

今宿 未悠
詳細・コメント
知らない夢に合わせて寝返りをうつ撮影：桑原仁太

K-07

知らない夢に合わせて寝返りをうつ

臼井 達也
詳細・コメント

北杜会場GASBON METABOLISM

パフォーマンス

H-03《そして、O-renはそれが歌であることを知った》小宮 知久
3月10日（月）14:00ー14:15
声楽家・パフォーマーの溝渕加奈枝が出演するパフォーマンスを行います。
※予約不要

BOX SEAT

H-01

BOX SEAT

早川 翔人
詳細・コメント
野生の霧©トモカネアヤカ

H-02

野生の霧

鈴木 泰人
詳細・コメント
そして、O-renはそれが歌であることを知った

H-03

そして、O-renはそれが歌であることを知った

小宮 知久
詳細・コメント

会場案内

MAP

［甲府会場］小さな蔵の美術館

［甲府会場］小さな蔵の美術館
時間
10:00～18:00（入館は17:30まで）
休館日
火曜日
住所
〒400-0031 甲府市丸の内1-1-25 甲州夢小路内
甲府駅北口より東へ徒歩3分
ART SPACE 夢まで徒歩3分

［甲府会場］ART SPACE 夢／多目的空間Y

［甲府会場］ART SPACE 夢／多目的空間Y
時間
10:00～18:00
休館日
火曜日
住所
〒400-0032 甲府市中央2-5-29 マイヅルビル2F
甲府駅南口より東へ徒歩6分
小さな蔵の美術館まで徒歩3分

［北杜会場］GASBON METABOLISM

［北杜会場］GASBON METABOLISM
時間
11:00～17:00
休館日
火・水・木曜日
住所
〒408-0205 北杜市明野町浅尾新田12
韮崎駅よりバスで20分／須玉ICより車で約10分

東京からのアクセス

主催

山梨県

協賛

株式会社ワイ・シー・シー

後援

多摩美術大学
東京藝術大学大学院映像研究科
山梨大学
山梨日日新聞・山梨放送
テレビ山梨
エフエム富士
エフエム甲府

応募先・問い合わせ先

山梨県 観光文化・スポーツ部 文化振興・文化財課

所在地
〒400-8501 山梨県甲府市丸の内1-6-1
電話番号
055-223-1790平日 9:00～17:00
E-MAIL
y-artaward@pref.yamanashi.lg.jp

■やまなしメディア芸術アワードウェブサイト

URL
https://y-artaward.jp/
YMAA 2024 メタバース企画展
K-01

そうだね/そうだよ

遠藤 梨夏

そうだね/そうだよ

液晶モニターを殴る行為は、痛みと引き換えに美しさを生み出す行為として捉えることができる。身体が受ける痛みと、モニターが壊れることで現れる鮮やかな光や形状は切り離せない関係にある。
この行為を通じて、曖昧化した境界―たとえば、現実と虚構、身体とデジタル、あるいは制御と暴走―が浮かび上がる。暴力という行動を通じて、内なる衝動を観察し、自己が持つ破壊性や暴力性の本質に向き合おうとした。初めは試行的であったこの行動は、図らずも次第にエスカレートし、制御不能な状態に至りそうになった。この過程は、自己の中に潜む本能的な欲求や制御の欠如を顕在化させるものだろう。

作者プロフィール

遠藤 梨夏

遠藤 梨夏

1998年福岡県生まれ。佐賀大学大学院地域デザイン研究科在籍。日常の隙間を見つけ、概念で遊ぶような作品を制作している。主な展覧会に、個展「寝て起きてくつずれ」旧枝梅酒造、佐賀、2024、個展「おままごとのストレッチ」IAF SHOP*、福岡、2023グループ展「ニュー・ニューウェーブ・フクオカ」八番館[黄金町エリアマネジメントセンター]、神奈川、2023など。

作者ウェブサイト

審査委員コメント

金 秋雨
最初に無力感を覚え、その後湧き上がる不安、そして次第に滑稽さを感じ始める。本作は、現代社会に潜む矛盾をシンプルに表現し、高い観客性を持ちながら観る者に強烈な印象を与える。暴力的衝動とその制御の境界、さらには破壊行為そのものが生み出す美の本質を鋭く掘り下げている。短い作品ながら何度も繰り返し観たくなる魅力があり、その行為への後悔やセルフコントロールの難しさに改めて考えさせられる。
原田 裕規
モニターを殴り続ける様子を見て、自然と「わかる」と思いました。モニターを撫でずに殴る──現代の情報環境には、そうでもしないと解消できないそうしたところで解消できない絶望感が満ちています。しかしそれだけでなく、なぜそんなに不安定な場所で殴っているのか？ なぜ少し古いモニターを殴っているのか？ 単純には説明できない要素も多く、不思議なニュアンスの漂う作品でした。
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K-02

波間にて

羽田 光佐

波間にて

誰しもいつか死が訪れ、生きることは有限だとみんな知っているのに、見過ごされているように感じる。でも、そのまま見ないふりをして日々を送ることに、そんなのは嫌だという感情が湧き上がってくる。
死・生の有限さに思いを巡らせ始めると、生きている間に本当に感じたいことは何なのか、何が自分にとって大事なことなのか、内で鳴っている声がおぼろげにでも聞こえやすくなる感じがする。自分がこうして生きていることを大切にしたい、忘れないようにいたいと思い、寿命を擬似的に表現することで、死を想起する体験を試みた。

作者プロフィール

羽田 光佐

羽田 光佐

”生きている”ことの不思議さに関心を抱き、生き物や無機物とのつながり、生命が辿ってきた歴史やその仕組みをひも解きながら、自分の存在を捉え直す探索を続ける。プログラムによる映像表現を主な手法としつつ、電子デバイスや、微生物培養などバイオロジーを用いた制作も行う。

作者ウェブサイト

審査委員コメント

高見澤 峻介
自分の寿命を一個の粒として全世界の粒と比較する、想像してみると少し恐怖を覚えます。多分その中には戦争や災害、病気で平均値から外れていく粒もあるのでしょう。鑑賞者の脈拍をリアルタイムに計測し作品内部に影響を与えることで、インタラクションとしての強度と幅を持たせているようでもあり、想像している恐怖以外があるのか気になります。
多田 かおり
「寿命」というテーマ設定と、それをシンプルに表す手法が優れている。寿命という言葉は命の期限を表すが、それは生物学上の事象というだけでなく、人々の倫理観例えば長寿でも短命でも同等に生命に価値はある、というようになども含意している。本作からこうした寿命という概念の複雑さ、奥深さを視覚体験として感じ取れるのかと想像している。
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K-03

"I was a weapon."

倉持 清香

I was a weapon.

本作は、ロッシェル塩スピーカーと、その歴史を綴った詩からなる音響作品である。ロッシェル塩はワインに含まれる酒石酸から化合できる結晶で、力を電気に変換する性質を持つ。戦時中にはこの性質が潜水艦ソナーに応用され、結晶の大量生産の為に山梨の醸造所でワイン作りが行われたが、代替品の台頭に伴い結晶は無用の遺物となった。この技術や物語を表現に取り入れることで、近代技術のめまぐるしい進歩とその背後の消費、喪失への言及を試みた。

作品URL

作者プロフィール

倉持 清香 Friedrich Boell

倉持 清香

ケルン・メディア芸術大学exMedia科Diplom課程。現在は創造性の精神構造に興味を持ち、石器からコンピュータ、宗教用具に至るまで、人類が岩石や鉱物、結晶を用いて発展させてきた文化・技術について、リサーチしている。近年の展覧会に「border/less - 境界線のない世界」ケルン日本文化会館、ドイツ、2024、「Kölner Kongress 2024」Deutschlandfunk、ドイツ、2024など。

作者ウェブサイト

審査委員コメント

太田 智子
山梨県のワインの歴史と深く関わる忘れられた技術を、新たな形で現代に蘇らせることで、技術の発展と衰退を問うている。ワイン由来のロッシェル塩が潜水艦のソナーに使われた逸話は知られていても、戦後80年を迎える今、その実体は遠い過去のことだ。ロッシェル塩の結晶を自ら生成、ワインボトルを用いたスピーカーにして一人称の物語を語らせるという完成度に感銘を受けた。
高見澤 峻介
古典的物質や現象を現代の高度な技術と掛け合わせるアプローチは、同じ作家として非常に興味があります。ワインボトルの中に緻密に装置を組み込んだ様はある種武器・兵器のような緊張感があり、実際に作品を見て体験してみたいと強く思いました。
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K-04

Bonchi-Kofu-

久々利 涼

Bonchi-Kofu-

甲府盆地という独特の地形を持つ土地を、約200kmにわたり夜間に歩きながら撮影した。一見するとどこにでもある地方の風景に見えるかもしれないが、この地形特有の自然の成り立ちや、周囲の地域との隔たりが、夜の静寂と相まって、土地と向き合う特別な感覚を生み出す。本作は、そんな夜の甲府盆地に潜む未知の風景を発見することを目的としている。歩きながら撮影する行為そのものが、土地を身体的に捉え直す試みでもある。

作者プロフィール

久々利 涼

久々利 涼

1997年岐阜県生まれ。2020年東京造形大学造形学部デザイン学科写真専攻領域卒業。
活動の中心は、中京圏愛知、三重、岐阜の濃尾平野や地方都市。夜の風景に潜む静寂や、人工の光と闇が織りなす風景を撮影する。また、見過ごされがちな地方都市の姿を記録している。2022年度ヤング・ポートフォリオに選出、清里フォトアートミュージアムに作品収蔵。2019 第7回「金栓馬杭賞」中国銀栓馬杭賞受賞。

作者ウェブサイト

審査委員コメント

太田 智子
甲府盆地を夜間200km歩いて写真を撮るという手法も独特だが、作品も、盆地に暮らす人間が見てもどこか分からないような、ある種の異様さが感じられるものである。人が写っていない夜の写真だから、という理由はもっともだが、どこにでもあるような地域の風景が、暮らしの感触を剥ぎ取られた森閑とした景色に見えるのは本作の力だろう。
原田 裕規
なぜ、夜間なのか。なぜ、200kmも徒歩移動したのか。わかるような、わからないような、心地良い謎に惹かれました。しかもその謎はハッタリではなく、作者の中で何かの必然性があるのだろう、とも感じました。だからこそ「展示」という形でさらに発展した作品の姿を見てみたい、作者の話も聞いてみたい、そう思わせられる作品でした。
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K-05

Five Years Old Memories

小光

Five Years Old Memories

作者が友人達に5歳頃の記憶をインタビューし、その個人的な感覚の記憶やエピソードを元に制作したオムニバス形式のインタラクティブ・アニメーション作品。送り迎えのときに感じていたこと、1人でしていた遊びなどのエピソードが手描きのアニメーションで表現され、実際のインタビュー音声とともに再生される。エピソード内容によって異なるインタラクションを探しながら、プレイヤーは幼少期特有の現実と空想が混じり合う感覚を追体験することが出来る。

作品URL

作者プロフィール

小光

小光

アーティスト。イラストレーション、アニメーション、ゲームを制作。東京藝術大学大学院映像研究科アニメーション専攻修了。主なインタラクティブ作品に「here AND there」、「Wander in Wonder」がある。1990年代CD-ROMソフトをMacintoshで実演する企画「小光とあそばnight!」を、コ本やhonkbooksにて不定期に開催中。

作者ウェブサイト

審査委員コメント

太田 智子
幼少期の感覚や言語化の難しい行動を、アニメーションとプレイヤーの操作によりゲーム感覚で追体験できる。大人が操作すれば、身近なものや人との関係を自分だけの論理で理解し、突拍子もない感覚で世界と付き合っていた時期があったことを思い出すのではないだろうか。子どもが操作すれば、これを超える秘密の体験を語ってくれそうな気がする。
金 秋雨
小光の作品は、幼少期の繊細で曖昧な感覚を鮮やかに描き出すだけでなく、子供ならではの単純さと、時に残酷ともいえる時間の本質を鋭く表現している。手描きのアニメーションとインタビュー音声が織りなすこの作品は、幼少期の現実と空想が入り混じった世界を追体験させると同時に、大人の視点から忘れかけていた世界との距離感を改めて考えさせる。
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K-06

熱触療法

今宿 未悠

熱触療法 撮影：青木成美

熱触療法は、私と鑑賞者とが一対一で行う、熱と接触による関係構築のリハビリテーションである。私達は熱せられた液体パラフィンを間に置き、並んで座る。 手を握り合わせてパラフィンに浸し、持ち上げる動作を繰り返す。パラフィンは次第に分厚い膜となり、手の境界が覆われる。と同時に、触覚的な自他の境界も曖昧になる。 皮膚感覚が溶解し、脈が誰のものかわからなくなる。冷えたパラフィンから手を抜くと、関係構築の痕跡が形として残る。 現代において忌避される熱と接触によって私たちは、再び (Re) 適合 (Habilis) する。

作品URL

作者プロフィール

今宿 未悠

今宿 未悠

2000年、東京都生まれ。詩人/パフォーマンスアーティスト。言葉と身体の領域を往還するなかで、自己と他者/世界が、やわらかにたしかに統合する方法を模索する。 ままならない自分の輪郭をもっとほどいて他者や他物と関係を結びあい、あたらしい知覚、思考、行為に遭遇するために、装置や状況を作りそれらに巻き込まれるような身体的実践を行う。実践によって遭遇した知覚、思考、行為を記憶し、再構成し、更新するために、詩を書くことを試みている。主な受賞に、第一回西脇順三郎賞新人賞、主な出版物に、詩集『還るためのプラクティス』七月堂がある。

作者ウェブサイト

審査委員コメント

高見澤 峻介
暴力的にも見える大胆な手法と「療法」というテーマの繊細さのバランスに興味をそそられました。
スマートフォンと指先を通していつでも誰とでもコミュニケーションが取れる現代において、手と熱の二つの要素を持ってオブジェを結晶化させるプロセスは私たちに多分の示唆を与えてくれるかもしれません。発表の形式もどの様な形になるか楽しみです。
多田 かおり
接触、パラフィン、熱、と最低限の要素で多くを語る作品だ。まず私たちは知らない人と手を繋がない。手を繋ぐという行為には単なる身体の一部の接触以上に、私たちの文化の中で培われた意味がある。この作品はまた一方的に鑑賞するのではなくむしろファシリテーター作家にじっくりと見られる時間を生む。こうした数分の接触に現れる他者との関係性が、形として残ってしまうのだ。
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K-07

知らない夢に合わせて寝返りをうつ

臼井 達也

知らない夢に合わせて寝返りをうつ 撮影：桑原仁太

作者がオンラインフリーマーケットサイトで購入した、持ち主不明のオーダーメイド枕を展示する。鑑賞者は展示された枕を実際に使用することが可能である。会場に設置された枕に頭を乗せた時、かつてその枕を使用していた出品者の骨格を迎合するかのように生まれる違和感は、オンラインサイト上で行われることのないユーザー間の超身体的なコミュニケーションの証憑であり、2020年代以降急速に一般化したオンライン上でのコミュニケーションにより薄らぎつつある我々のウェットな身体性をシニカルに指し示すであろう。

作品URL

作者プロフィール

臼井 達也

臼井 達也

1997年東京生まれ。ECサイト上に表示される商品の参考イメージなど、偶発的で所有権が曖昧なモチーフを基に制作活動を行う。インターネット上のイメージとオブジェクトの関係性、そしてその影響から免れることのできない、潜在的にコントロールされた消費行動を観察しながら、今日の既製品芸術を表現している。

作者ウェブサイト

審査委員コメント

高見澤 峻介
そもそも枕ってものすごくプライベートな物だと気づかせてくれました。他人の使った枕が販売されているということは、それなりに需要があるからで、フリマサイトであったとしても少し驚きました。理解し難い現象ですが、それに自分が寝ることが本当にできるのか、いや作品だから寝れるということもあるのでしょう。
原田 裕規
コンセプトや作品説明は矛盾しておらず、理にかなったものであるにもかかわらず、臼井達也というアーティストの作家性がにじみ出ている本作品。テクノロジーの「凄さ」ではなく、そこにまとわりつく「身体」を感じさせる作家性は、果たしてこれからどんな風に変化していく／いかないのか、これからの展開も期待させる秀作でした。
CLOSE
H-01

BOX SEAT

早川 翔人

BOX SEAT

観客の表情を入力として扱うライド型アーケードゲーム。交通機関や飲食店にあるボックスシートを舞台に、 観客が画面内で対峙するデジタルヒューマンと表情を鍛えるセッションをこなしていくことでシーンは遷移する。いわば「顔ゲー」である。心身の状態が無作為に数値化されてしまう都市生活において、過剰に表情を作って鍛えることは来るべき未来に向けたフィットネスとなるだろう。テクノロジーにフィットした身体づくりである。

作品URL

作者プロフィール

早川 翔人 Photo by Kenji Agata

早川 翔人

ヴィデオアーティスト。東京藝術大学大学院映像研究科メディア映像専攻修了。オンスクリーンメディアとの関わり方をテーマに制作活動を行う。かつて人類が狩りを通じて遊びながら社会訓練をしていたような遊戯性が、カメラの前で演じる行為にもあると仮定する。映像を前にする観客をその出演者として巻き込むことで、観客と映像、あるいは見知らぬ観客同士の間に何らかの不可分な関係性を築こうと試みる。

作者ウェブサイト

審査委員コメント

金 秋雨
とてもシンプルでパワフルな作品であり、テクノロジーと身体性が交差する点で新たな表現を提示している。テクノロジーを活用した身体的フィードバックにより、観客は自分の内面に触れる瞬間を体験できることが期待される。現代社会に生きる私たちは、この作品を通じて、それぞれどのような感情でまた自分の表情を意識するのだろう。作家がアーケードゲームと表現する一方で、現代的なセラピーの要素も感じられる作品である。
多田 かおり
「観客の表情を入力として扱うライド型アーケードゲーム」と説明される本作は、人間の感情がコンピュータ・アルゴリズムに解釈され、その解釈によって逆に感情が限定されてしまう、現代のテクノロジーを露悪的に見せているのかもしれない。さて、これがアーケードゲームなら、どこにあるのが相応しいだろう？感情を欠く荒れ地か、それとも感情の煩わしさから解放された穏やかな場所なのか。
CLOSE
H-02

野生の霧

鈴木 泰人

野生の霧 ©トモカネアヤカ

南都留郡の川が流れる森林で霧に出会い、音を頼りに彷徨う経験が原風景となった《野生の霧》は、心の状況を作り出している。その状況を日常生活に重ねて、形の在るモノと形の無いオトを素材に日常に潜むモヤのかかった野生の霧を表現しようとした。モノは、主に山梨で使われていた日用品を中心に視覚的に並べられ、オトは、そのモノの音と都留の自然や会場を含めた環境音を元工場空間内に並べて鑑賞者の記憶を刺激する。作品を通してイメージに包まれた後に山梨での記憶を、霧を抜けてそっと持ち帰って頂ければと思う。

作品URL

作者プロフィール

鈴木 泰人 ©トモカネアヤカ

鈴木 泰人

光や音、そして場所を題材にして、絵画からインスタレーション、パフォーマンスアートなど多様な活動を行う。 コンセプトの「はかる」は、居場所を示すことで位置を確かめ「ならべる」は、収拾されたモノを作家のフィルターを通して設置することで様々な見方を提案する。これらを用いて各地域で作品制作のプロセスにおける取材や会話から身近な自然環境や社会と生活の物語を表現として紡ぎだしている。

作者ウェブサイト

審査委員コメント

金 秋雨
アワードで珍しく、芸術祭のようなコミッションワークであり、既存の芸術プラットフォームに依存することへの批判的な視座を持ちながらも、プラットフォームの必要性を同時に認識している。その上で、作家の思考や課題、地域との関係性が作品を通じて可視化される点に、本作の大きな意義がある。「形なきものをどう記憶し、共有するか」というテーマに対し、音響や照明に特化した技術を駆使した作品制作は、単なる技術的成果にとどまらず、地域と共鳴しながら記憶を再構築する方法論の一つとして機能することが期待される。
原田 裕規
一見すると、高度なテクノロジーが使われているわけでも、最新のAIが導入されているわけでもない本作。それを「メディア芸術アワード」という枠組みの中で見たとき、面白い化学変化が起きているように見えました。それに「本当にこのプランが実現できるのか？」という風呂敷の大きさも魅力的でした。展示の実現を楽しみにしています。
CLOSE
H-03

そして、O-renはそれが歌であることを知った

小宮 知久

そして、O-renはそれが歌であることを知った

人工音声が彼ら自身の歌を獲得するためのメディアインスタレーション/パフォーマンス作品。
この作品で人工音声は自身の発話や環境音を英語で認識し、その認識結果を日本語の発音で読み上げる。この誤認識を含んだ再帰的なプロセスにより詩を生成しつづける。
また自身の発話や環境音から検出された音程に合わせて読み上げの音程を変化させ、彼ら自身の歌を歌いつづける。
鑑賞者やパフォーマーがこの営みに干渉することも可能である。

作品URL

作者プロフィール

小宮 知久 Fuka Nagata

小宮 知久

1993年生まれ。メディアアーティスト、作曲家。音楽のさまざまな規範や形式をラディカルに問い直すべく、現代のメディア環境と身体性を考察して新たな音楽を探究している。楽譜ベースの音楽作品から電子音響作品、メディアパフォーマンス、インスタレーションなど領域横断的に制作していて、近年では展示とコンサートを組み合わせた形式で作品を国内外で発表している。 第24回文化庁メディア芸術祭アート部門新人賞、第87回日本音楽コンクール作曲部門第２位。

作者ウェブサイト

審査委員コメント

太田 智子
人工音声の生活への浸透は目を見張るものがあるが、機械が人間社会で目指すのはなるべく人間らしい声だ。その前提からすると、本作は違和感だらけの雑音が響いているような作品である。人工音声が自身の方法で、およそ人間の歌とはかけ離れた独自の「歌」を獲得し生成し続けるという。この乖離が拡大した先にある未来に、どこか寒気立つ思いがした。
多田 かおり
実のところ「人工音声が自身の発話や環境音を英語として聞き取り、日本語で読み上げ、さらにこれらの音程から発話の音程を変化させ、メロディーも生成する」という仕組が歌の生成のロジックといえるのかは音楽が専門外の筆者には分からない。それでもなお「人工音声が歌を歌ったなら？」という問いと実際の歌のインパクトは大きかった。
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